年上のひと

「インフルエンザの予防注射打ったのに風邪ひいた」
って、真剣な顔して言われても困るんですけど。
アナタ打ったのインフルエンザの予防注射でしょう？
風邪とインフルエンザは違うでしょう？？

私の家族は一度もインフルエンザにかかったことが無いという珍しい一家だ。
とくに父親なんか毎日何百人って人間と接する（not接客業）仕事なのに、一度ももらってきたことが無い。
よく周囲に「それ、インフルエンザだって気付いて無いだけじゃないの？」と言われるんだけど、どっこい風邪もあまりひかない。
ひいても薬飲んで寝れば一日で治る。
インフルエンザは、二、三日熱が続くものらしいから、これは絶対インフルエンザでは無いと言い切れる、正真正銘の「風邪」だ。

ちなみにコレ言った人、五十代。
もう手のほどこしようが無い。

別の年上の人。

私が「なんでそんなに色々知ってるんですか？」と聞くと、「いや、何も知らないよ」と言った。
「年の功ですか？」
「まぁ、そんなもんだね。長く生きてりゃその分色々知るのは当たり前だろう？」
「色々知らない年上の人もいます」
「そんなもん、そりゃあ…嘘だろう」
「嘘？」
「ああ、嘘だね。あなたより長く生きてるんだったら、あなたより知ってなきゃいけない」
「でもほんとうに知らないんです、色々」
「じゃ、ダメだね。あなたより知らないんじゃダメだよ。何して生きてるんだ、って話しだ。ダメだね」

四十代のこの人は、私のことを「おこちゃま」扱いする。
しかしこの人はほんとうに「無駄」な人とは接しない。
そのことが少しだけ私の自信に繋がる。

色々知ってる人に必死に食い付こうとする自分が結構好きだったりする。
そうして知識を分け合っていくことがより人間に近付けると思うからだ。
もう会えない、天才的（というより秀才という表現の方が正しいかも知れない）なあの人のことを思い出した。
あの人の意志が、私は好きだった。
あの人は私より三歳上だった。